「ヨースケくん」(那須正幹)

ヨースケくん―小学生はいかに生きるべきか (for Boys and Girls)

ヨースケくん―小学生はいかに生きるべきか (for Boys and Girls)

 小学5年生の奥谷陽介くんの日常を描いた短編集。あとがきで作者も書いておりますが、こういう「ごくごくふつうの小学生の、ごくごくふつうの日常」を描いた作品は那須正幹にはめずらしいです。
 さて、「ヨースケくん」ですが、本当にどうしようもないくらい日常の物語です。ただし日常といっても、小学生の鋭敏な感性から見るとなかなかこれが心を揺さぶってくるのです。転校生の家に入り浸って怒られた話。お説教をしている先生の顔を見てるとだんだん先生の顔が小さく見えてきたことに感動したり、お父さんがリストラされて一家心中するんじゃないかとおびえてみたり、町に放火魔が現れてパトロールをすることになり、それが楽しくなって放火魔を待ち望んでしまったり。現役小学生も元小学生も共感してグッとくるようなエピソードが必ず見つかると思います。
 一番面白かったのは第6話の「ヨースケくんの秘密」でした。ヨースケくんには下半身スッポンポンにならないとトイレに入れないという人にいえない秘密がありました。なので学校のトイレで大をすることなどできません。ところがある日大を我慢できなくなり、授業中に先生に保健室に行きたいと告げます。すると先生は保健委員の熊田さんについていきなさいと命じました。熊田さんはヨースケくんの隣の席の女の子で、ヨースケくんはなし崩しにテストのカンニングの共犯にされていました。さて、教室を出てトイレに駆け込んだヨースケくんはどうするか。
 カンニングはもちろんいけないことですが、小学生はきれい事だけで生きているわけではありません。ちょっとの秘密と罪悪感と優しさを抱えて生きていくのです。正しいだけてはやっていられない人生の奥深さが感じられる好短編でした。