「ねんどの神さま」(那須正幹/文 武田美穂/絵)

ねんどの神さま (えほんはともだち (27))

ねんどの神さま (えほんはともだち (27))

 日本の戦後の歩みを率直にあぶり出してしまった名作です。ラスト1ページの後味の悪さといったらありません。
 1946年の9月、小学生の大迫健一くんは学校の授業でねんど細工の神さまをつくりました。その神さまは「戦争をおこしたり、戦争で金もうけをするような、わるいやつをやっつけ」る神さまなのだと健一くんは語りました。それから50年後、廃校になった学校の倉庫で忘れ去られていたねんどの神さまが、巨大化して東京にむかって動き始めました。すぐに自衛隊が配備され攻撃をしますが、効果はありません。兵器会社の社長が政府に指示を出し、毒ガスや核まで投入しますがそれでも神さまの侵攻は止まりません。
 神さまの目的は東京の兵器会社、今は兵器会社の社長に納まっている健一くんに会うことでした。神さまと健一くんはこう問答します。

ねえ、ケンちゃん、もう、ぼくは、いなくなったほうがいいのかなあ。ケンちゃんは、むかしみたいに、戦争がきらいじゃないみたいだからね。

わたしは、子どものころとかわりないよ。戦争をにくむ気もちは、いまだってもっている。ただね、戦争というやつは、にくんでいるだけじゃあなくならない。かえって強力な兵器で武装していたほうが、よその国から戦争をしかけられることもない。つまり、平和を保つことができるのさ。わたしの事業は、平和のための事業なんだよ。

 神さまは健一くんに説得されてもとのねんど細工に戻ります。健一くんはねんど細工にコンクリートのかたまりをぶつけてこなごなに破壊してしまいます。最後のページの文章を引用します。

 男は、立ちあがって、ヘリコプターに手をふった。
 これで、いい。この数十年、心のすみにひっかかっていたトゲのようなものが、きれいになくなってしまった。
 あとは、もう、自分の思うように事業をすすめることができる。
 男は、晴ればれとした気もちで、ゆっくりと自分の会社のなかへもどっていった。