「30年目の宝さがし」(那須正幹)

30年目の宝さがし (ひくまの出版創作童話―つむじかぜシリーズ)

30年目の宝さがし (ひくまの出版創作童話―つむじかぜシリーズ)

 サトシとユミの兄弟は夏休みに父親の田舎の祖父母の元に預けられます。初めは楽しかったけれどやがて田舎の暮らしにも飽きてきてうすぼんやりと日々を過ごしていました。そんなときに父親から手紙が来て、暇つぶしに30年前に自分が隠した宝を探すように提案されました。手紙には宝の地図も添えられていました。宝探しに出かけた兄弟は一人の少年に出会います。その少年は誰かに似ているような……。
 この作品はもちろん宝探しや少年の謎など筋の上でも面白いのですが、それ以上に作品世界の雰囲気がよいです。序盤にある風鈴、縁側、半ズボンの少年と記号的なまでに「夏」を描いている中島潔のイラストに象徴的なように、とにかくこの作品は「夏」なのです。田舎で過ごす夏のけだるい日々の疑似体験。この本を読むだけで夏の心地よさを堪能できます。