「六年目のクラス会」(那須正幹)

 一九八四年に刊行された短編集です。神に選ばれた短編集といっても過言ではありません。
 トラウマ児童文学として有名な「The End of the World」が初めて収録された本としても有名です。これは核戦争が起きて家族と共にシェルターにこもった少年の物語です。
 白眉なのは表題作の「六年目のクラス会」です。これについてはなにもいうことはできません。なにもいえないという情報だけで勘のいい人は作品の仕掛けを見破ってしまうでしょうが、ネタが割れてもこの作品の価値は損なわれません。あまりに透明であまりに無垢な悪意におびえることがこの作品の楽しみ方なのですから。
 ポプラ社は2003年にこの作品集から四編を選んで「The End of the World」と改題して一般向けに新装版を刊行しました。「The End of the World」に収録されているのは「The End of the World」「まぼろしの町」「ガラスのライオン」「約束」の四編ですが、このほかにも「六年目のクラス会」には傑作が並んでいます。
 江戸時代を舞台にした「お民の幽霊」は、愛人の家で死んだどうしようもない亭主を降霊術で呼び出そうとする話です。人間が他人に対して抱く思いの多面性を見事に描いています。
 「田中さんのおよめさん」は中年男性が脳内嫁と決別する話です。結末から幻の嫁との別れが間違った選択だったようにも読みとれるところがおもしろいです。
 いろいろな側面から人間の本質に迫っている作品集です。これを読まずに那須正幹を語ることはできません。