「折り鶴の子どもたち」(那須正幹)

 広島の「原爆の子の像」を題材としたノンフィクションです。
 第一部では2歳の時に被爆して1955年に白血病でなくなり、像のモデルとなった佐々木禎子について語られています。彼女の人となり、死に至る経緯、当時の原爆を巡る状況が多角的な視点から検証されており、原爆の悲惨さを訴えるには充分な読み物になっています。しかしさらに圧巻なのは禎子の死後、像の建立までのいきさつが描かれいてる第二部です。
 那須正幹はこのテーマを「禎子の同級生が運動を起こして像を建てた」というだけの美談で片づけませんでした。まずことの発端が子供たちの自発的な活動ではなくて、一活動家の青年が禎子の小学校時代の同級生を煽動して起こしたものだったとぶっちゃけてしまいます。しかし活動はすぐに事実上の発起人である級友の手から離れてしまい、中学校の生徒会が仕切ることになります。そこに様々な大人の思惑もからみ、禎子とまったく関係のないところで事が進められてしまうことになります。
 運動の実情をここまで綿密に調べ上げた那須正幹の取材力には驚嘆するしかありません。この本は単なる反戦を訴える読み物の枠を越え、高度な市民運動論、政治論になっています。