「クマ八名探偵」(那須正幹)

こちらクマ八探偵局 (ポプラ社文庫 (A183))

こちらクマ八探偵局 (ポプラ社文庫 (A183))

 アマゾンのリンクで出ているのは改題されたポプラ社文庫版です。ハードカバー版はPHP研究所から1981年4月に出ています。
 動物と人間がともに暮らす世界で起きた事件をしろうと探偵クマ八が解決するというお話。各章のタイトルは以下のようになっています。

「怪盗モモ太郎」
「かちかち山怪事件」
「かれ木に花を」

 タイトルを見ればわかるように、昔話のパロディになっています。たとえば第二章の「かちかち山怪事件」では、小寺井さんの奥さんがタヌキのポン太に殺された上、タヌキ汁にされて小寺井さんに食べさせられるという身の毛もよだつような猟奇的な事件が起こります。さらに恐ろしいことに、事件から十日後、加害者のポン太は水死体として発見されます。その死体には大きなやけどのあとがあり、しっぽまでも焼け落ちてなくなっていました。と、ここまではおなじみのお話。そのあと那須正幹は強引に別の昔話に結びつけ、さらに背後に製薬会社の生体実験問題を絡め、社会派のミステリとして仕上げています。
 第三章は「花咲かじいさん」の話を公害問題に結びつけており、公害によって無惨に枯れ果てた桜を隠蔽するために、花咲かじいさんは特殊な農薬である灰をまいて桜が健康であるように見せかけていたという解釈をしてみせます。こちらもなかなか社会派。動物キャラや昔話のストーリーでコーティングしながら現代社会の闇をえぐるスリリングな作品です。