「なみだちゃんばんざい」(那須正幹)

なみだちゃんばんざい (講談社の幼年創作童話 8)

なみだちゃんばんざい (講談社の幼年創作童話 8)

なみだちゃん ばんざい (どうわがいっぱい)

なみだちゃん ばんざい (どうわがいっぱい)

 1976年に刊行された、那須正幹初の幼年童話です。1976年の「講談社の幼年創作童話」では林明子が挿絵を担当。1991年の再刊では、挿絵は伊東美貴にかわっています。
 「なみだちゃん」はタチバナ小学校一年一組で一番の美人です。でも、あまりに泣き虫なので評判は芳しくありません。
 なみだちゃんの泣き虫っぷりは尋常ではありません。泣き声の大きさは「しょうぼうしゃのサイレンが小さくきこえるくらい」。いったん泣き始めると最低三十分は泣きやまず、長いときは朝から夕方までずっと泣き続けます。
 泣くという動作には意外と体力が必要なもので、普通の人間には三十分泣き続けることも難しいはずです。なみだちゃんは非常に過剰なエネルギーを持ったキャラクターであることがわかります。やがて夏になると水不足をいう問題が発生し、ここで過剰なエネルギーを持ちながらも厄介者扱いされているなみだちゃんに活躍の舞台が与えられます。この構成は「三年寝太郎」などの説話を思わせます。
 奇想天外な活躍で問題を解決しながらなおも泣き続けるなみだちゃんが最後につぶやく「ばかね。これはうれしなきよ」というセリフは、泣くのは悪いことであるという価値観を見事に転倒させていておもしろいです。