「真珠のドレスとちいさなココ」(ドルフ・フェルルーン)

真珠のドレスとちいさなココ―Slaaf Kindje Slaaf

真珠のドレスとちいさなココ―Slaaf Kindje Slaaf

 12歳の誕生日プレゼントにちいさな奴隷をもらった少女マリーアの物語。マリーアは奴隷とセットでかわいらしい鞭も手に入れました。奴隷の犠牲の上で成り立っているマリーアの優雅な日常が淡々と綴られていきます。
 大変気持ち悪い小説です。なにが気持ち悪いって、白人たちがまったく無感動に奴隷を虐待しているのが気持ち悪い。彼らにとって奴隷制度は疑う余地のない秩序だったのでしょう。今を生きる我々にとっては目をおいたくなるような残虐な仕打ちでも、彼らにしてみれば日常のありふれた出来事でしかありません。
 しかし抑圧されていたのは奴隷だけではありませんでした。
 マリーアの父親が若くて美しい奴隷を手に入れてから、母親の情緒が不安定になっていきます。やがて奴隷が身ごもると、母親は靴で奴隷を殴りつけ、頬に穴を開けてしまいます。傷物になった奴隷は売りに出されてしまいます。マリーアも誕生日にもらった奴隷を売って新しい女奴隷を手に入れますが、彼女もまた出産します。マリーアが問いただすと、奴隷は子供の父親がマリーアが憎からず思っていた若者であったことを告白します。
 女たちは抑圧する側であると同時に、抑圧される側でもあったのです。彼女らは怒りを奴隷に向け、ひどい虐待をします。彼女らが怒りの向けどころを間違っていることに気付いていないのが悲しいです。でも仮に気付いていとしても、彼女たちはなにをすることもできなかったでしょう。そこがまたやりきれません。