「バラ色の怪物」(笹生陽子)

バラ色の怪物

バラ色の怪物

バラ色の怪物 (講談社文庫)

バラ色の怪物 (講談社文庫)

「ほら、あたしくらいの年ごろになると、反抗期だの思春期だので、世の大人たちがみーんなずるくて汚く思えてくるじゃない?若い人たちは純粋で、だから汚い大人たちと戦わなくちゃいけない。なんてまじめに考えたりしてさ。でも、あれって半分うそだよね。もう半分は本当だけど。……知ってる?遠藤。子どもの真の敵って、じつは子どもなんだよ」(p127)

 経済的に困窮している母子家庭の少年遠藤が、他校の怪しい上級生のさそいでトレーディングカードの売買のバイトを始める話です。
 遠藤は片目が乱視で眼鏡をかけていました。それが壊れてしまうのですが、家庭の経済状況をよく知っている彼は眼鏡を買い替えることができず、乱視の方の目に眼帯をしてごまかします。このあたりの貧困の描写はたいへん現実味があります。
 文庫版の解説は十代の作家片川優子。彼女は中三の時に「バラ色の怪物」を読んだそうです。いちばんいい時期に読めただけあって彼女の言葉には説得力がありました。彼女が述べているとおり作品の主題は「世界との出会い」「自分との出会い」なのでしょう。世界の得体の知れなさに初めて対峙した少年は、自分の内にも得体の知れない怪物がいることに気付いてしまう。思春期の大きな課題をスリリングに描いている作品です。