「イーゲル号航海記1 魚人の神官」(斉藤洋)

イーゲル号航海記〈1〉魚人の神官

イーゲル号航海記〈1〉魚人の神官

 魚人で神官ですか。インスマスですね。きっと邪神を召喚しちゃうんですね。
 斉藤洋の新シリーズです。このあいだ「ルーディーボール」を始めたばかりだというのにもうまた新シリーズ。「白狐魔記」はいつ出るんだろうかと心配になってしまいますが、困ったことにこの「イーゲル号航海記」もおもしろいシリーズになりそうです。
 主人公は日系ドイツ人の少年カール・キリシマ・キルシュ。

 学校は毎日いくところじゃない。
 ぼくはそう思っている。
 それで、月曜の朝、右にいけば学校、左におれれば港というわかれ道で、ぼくは左を選んだ。だぶん、そのとき、つまり、ぼくが左にいったとき、ぼくの冒険ははじまったのだ。(p11)

 カール少年はどうやら母親との関係がうまくいっていないらしく、こんな軽い感じで道を誤ってしまいます。彼はちょうど乗組員を募集していた潜水艇に乗り込んでしまい、なし崩しに冒険の旅に出ることになります。
 潜水艇の乗組員は一癖も二癖もありそうな怪しい人物ばかりでした。船長のローゼンベルク博士は海面の巨大な渦を観測するために潜水艇を操っています。彼の脇を固めるのは大男のハンスとあらゆる生物の言語を解するシェパード犬のラインゴルド。もっとも印象に残った人物はカールが乗船した日にコックとして雇われた男ハンスです。飄々としていてつかみ所のない男ですが、拳銃の使い方を教えたりとなにかとカールの面倒を見てくれるいいやつでした。
 作品の主題は「勇気」と「無駄なこと」です。魚人と巨鳥が戦うという人を食ったホラ話になかなか考えさせる内容を盛り込んだ、斉藤洋らしい作品でした。