- 作者: 牧野修
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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主人公はシンクロナイズド・スイミングに打ち込んでいる高校生の香織。彼女の小学校時代の知り合いが次々と水死体になって発見される奇怪な事件が起こります。事件の背後には香織が小学生時代に所属していた秘密クラブが不気味な影を落としており、香織の周囲は次第に非日常に包囲されていきます。
作品の肝はこの秘密クラブです。真の科学部を名乗る彼らは澁澤龍彦の著作を愛読し錬金術などのオカルティズムに傾倒していました。誇り高い彼らは世の俗人を「肉」と呼んで嫌悪し、世俗を捨てた自分たちは「鉱物的生命体」だとしています。しかしクラブの活動の実態は気にくわない教師に下剤を飲ませたり保健室で誘惑して陥れ性犯罪者の烙印を押したりといったいささか行き過ぎたいたずらでした。
作者はあとがきで「この小説に出てくる小学生たちは、ロボットこそ操縦しないが、リアルとはほど遠い存在だ」と断りつつ、「でも、あの頃の全能感と孤独。高潔と高慢さ。当時まともに表現できなかったが感じていたのは間違いないあれこれは、そのまま出来る限り「リアル」に表現したつもりだ」と述べています。物語はしっかりと作者の意図通りに料理されていました。読者は苦さの入り交じった共感を抱きながら、この頭のよすぎる子供たちの暴走を眺めることになるはずです。
作品世界を支配するのは不気味な水です。ファンタジー児童文学ファンであれば水を効果的に使う作家としてすぐに天沢退二郎の名前を思い浮かべることでしょう。牧野修も天沢退二郎に負けず劣らず水を幻想的に魅力的に描き出しています。作品世界はまさに水の檻にとらわれたように息苦しくなっています。しかしその息苦しさはどこか甘美です。