「天と地の守り人 第三部」(上橋菜穂子)

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)

天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)

 十全。全てが収まるべきところに美しく収まり長大な物語が完結しました。この作品に対する評価は「十全」の一言で表すしかありません。
 やはり目を引くのはチャグムの成長です。彼は英雄と呼ばれるにふさわしい活躍を見せてくれました。おそらく彼の存在は今後神格化されることでしょう。神の子として生き自滅した父親と別の道を歩もうとしているチャグムには不本意な事態ですが、それでも彼は為政者としてそのことを利用せざるを得なくなるでしょう。でも、チャグムが神の子なんかではなくただの人間であることは、バルサやタンダが知っています。そして読者も知っている。とりあえずはそれでいいのだと思います。
 そう、もうひとりのいい男の存在も忘れてはいけません。タンダです。彼は戦場ではなにも出来ずに倒れてしまいましたが、そんなことで彼のかっこよさが損なわれることはありません。なぜならタンダのかっこよさは生活の中に根ざしたものだからです。かつてミヒャエル・エンデは「永遠の英雄讃歌」*1で人殺しの出来ない男がまともな男と認められる未来を夢想しました。タンダの人物像はエンデの理想に対するひとつの答えになっています。