「群青の空に薄荷の匂い」(石井睦美)

群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に (ピュアフル文庫)

群青の空に薄荷の匂い―焼菓子の後に (ピュアフル文庫)

 「卵と小麦粉それからマドレーヌ」の姉妹編。語り手が文学少女の亜矢にかわり、高校生になった彼女たちの日常が綴られていきます。

 泣きたくなるくらいきれいなお天気だったので、いつもは教室で食べるお弁当を校舎の外の芝生で食べた。菜穂と横川と華ちゃんとわたし、丸くなって座る。四人だから、正確に言ったら四角く座っているのだろうけど、気分は断然丸だった。
 お天気のせいじゃなくて、こんなふうにさりげなく特別なとき、わたしはふいに泣きそうになる。この平和であたたかな時間が永遠に続くことはなくて、それがわかっているから泣きたくなるのだとわたしは知っている。(p4)

 このおだやかな冒頭を読むと、別にこのまま最後まで高校生がお弁当を食べながらだべっているだけの話で終わっても全然かまわないような気分になってしまいます。
 ところが石井睦美、この作品には呼ばれなかった同窓会というイヤなネタを仕込んできました。草野たき梨屋アリエのような他のYA作家であれば激鬱小説に仕上げてくれそうなネタです。しかしこの作品はそうなりませんでした。なるほど石井睦美はこうするのか。もしかしたら亜矢のトラウマがあまりにあっさりと解決してしまったことに批判が出るかもしれません。でもこの作品はリアリズムではなくおとぎ話なのだと理解すれば問題はないはずです。