「強くてゴメンね」(令丈ヒロ子)

強くてゴメンね (スプラッシュ・ストーリーズ)

強くてゴメンね (スプラッシュ・ストーリーズ)

 これぞ娯楽読み物。令丈ヒロ子のうまさがいかんなく発揮されています。
 小学5年生の柴野是康は、クラスで病弱美少女で通っている陣大寺あさ子が歩道のひしゃげたガードレールを素手で直す場面を目撃してしまいます。彼女は自分の怪力を隠すために学校では猫をかぶっているのだといいます。さらに柴野は、陣大寺が学校の体育倉庫を勝手に占拠して漫画を読んでいることも知ってしまいます。陣大寺が意外に親しみやすい女子だと知った柴野は、彼女のことが気になって仕方がなくなってしまいます。ところが、彼女は柴野の親友のヘタローが好きで、柴野は恋と友情の板挟みに悩むことになります。
 はっきりいってこの作品に新しいものはなにもありません。どこかで見たようなシチュエーションばかりで、展開は容易に読めてしまいます。でもおもしろい。王道を突っ走りながら有無をいわさず読者を楽しませてしまえるところが、令丈ヒロ子のおそろしいところです。
 ギャップで魅せる陣大寺のかわいらしさも、すぐに状況に流されてしまう柴野のバカさも、仲良し男子三人組が繰り広げるコントと友情劇も、すべてがうまくかみ合っています。非の打ちどころのない一級の娯楽読み物に仕上がっています。