「ボクシング・デイ」(樫崎茜)

ボクシング・デイ

ボクシング・デイ

 講談社児童文学新人賞応募作「ファントムペイン」で物議を醸したという著者のデビュー作です。「き」と「ち」の発音の区別がうまくできない女の子が、優しい先生に見守られながら小学校生活を送っていくお話です。
 「瑕疵はあるものの類まれな才能を感じる。オリジナリティーという意味では、この作家がいちばん」という煽り文句が付けられています。でも煽りの割にはこれといったクセもなく、よくも悪くも普通の出来に感じられてしまいました。
 もしかして騙されているのか?
 注意して読むと作者の罠と疑われる部分がなくはないです。物語が回想形式で語られていることも怪しいといえば怪しい。
 もっとも疑わしいのは、学校の奉仕委員会が車椅子と交換するために行っていたプルタブ回収が中止になるエピソードです。主人公はみんなで頑張って集めていたのに中止になるのはやりきれないという感慨は持ちますが、その理由が明確に説明されることはなく、煮え切らないまま話は終わってしまいます。プルタブを集めると車椅子と交換してもらえるというのは有名な都市伝説ですが、作中ではそのことには触れられていません。時代遅れの都市伝説に引っかかるエピソードはいかにもわざとらしく、なんらかの意図が疑われます。もう少し読み込めば作者のたくらみを見抜けるかもしれません。