「チームふたり」(吉野万理子)

チームふたり (学研の新・創作)

チームふたり (学研の新・創作)

 男子卓球部のキャプテンをしている大地は、小学校最後の大会を控えてはりきっていました。ところがダブルスでまだ未熟な下級生と組まされることになり、不満を持ちます。さらに女子卓球部のもめごとに巻き込まれたり、父親が失職したりと災難が続き、ダブルスで悩んでいるような状況ではなくなってしまいます。
 結論からいうと、人は支え合って生きていくものだというありきたりのお説教なのですが、あまり押しつけがましさの感じられないさわやかな読み物になっていました。勝因は母親がかっこよかったから。彼女は今までまともに働いたこともなかったのに、仕事を見つけてきて家族を支えます。失業してひきこもりになった父親を責めることもなく、「父さんと母さんは、ふたりで一つのチームなの。」「母さんが大変なときは父さんが助ける。父さんが大変なときは母さんが助ける。チームってそういうものなのよ。」と、意外な頼もしさをみせてくれました。さらにこんな感慨も漏らします。

「今まで、父さんがずーっと母さんを守ってくれてたでしょ?だから本当のことをいうとね。今は少しうれしいの。」
「初めてだもの。こういうこと。今度はわたしがチームメイトを守ってあげるの。休みたいだけ休ませてあげる。ねむりたいだけねむらせてあげる。」(p121〜p122)

 人が支え合うことのすばらしさだけでなく、状況に応じて柔軟に変容する人間関係の豊かさも描いているところが、この作品の奥行きを広げています。