「ぼくんち戦争」(村上しいこ)

ぼくんち戦争 (ポプラの森)

ぼくんち戦争 (ポプラの森)

 笑いとは本来アナーキーで危険ものです。関西系ギャグの第一人者である村上しいこの初の200ページを超える長編となる本作は、あらゆる建前や常識をはぎとる危険なギャグに満ち満ちていました。
 物語の大筋を一言で説明すると、家族が離散する物語ということになります。主人公のへいたの家は父母と祖父母と中学受験を控えた姉の6人家族でした。しかし姉は全寮制の中学を志望しているので来年には家を出る予定になっていました。さらに祖父母も老人専用のマンションに引っ越すと言い出します。この物語は家族は一緒に暮らすべきだという常識に真っ向から対立し、バラバラでもいいじゃんという方向に流れていきます。
 姉や祖父母に対して、一家の離散を食い止めようとする母親は家族を自分の思うままに管理しようとする抑圧的な人物として描かれてます。へいたは母親に脅かされたり買収されたりして当初は母親側につきますが、やがて姉や祖父母の気持ちにも理解を示すようになります。最後には家族は離散しますが、建前をはぎとった後に残るものが丁寧に描き出されていて、あたたかな読後感が残ります。
 こう紹介するとものすごくシリアスな話のように見えてしまいますが、ギャグてんこもりですらすら進む作風はいつも通りの村上しいこでした。たとえば序盤のクラスで飼っていた金魚が死んでしまった件について話し合いをする場面のつっこみの鋭さはなどは目を瞠るものがありました。先生が金魚が死んでしまったのは愛情が足りなかったからだと話をまとめようとするのに対して、ペットショップの息子が「別に、さわぐことやないと思います。じゅみょうとちがいますか」とつっこみをいれ、さらに「ところで先生、金魚一ぴき、ほじゅうするのなら、四百八十円ですけど、どうしますか?」ととどめを刺します。こんな感じなのでうっかりすると笑って読み飛ばしてしまいそうです。そここそが村上しいこの一番恐ろしいところです。