「さっさら春風」(浅田宗一郎)

さっさら春風―「もしも」はすてて (文研じゅべにーる)

さっさら春風―「もしも」はすてて (文研じゅべにーる)

 第一長編「さるすべりランナーズ」と第二長編「光の街」で格差と貧困という厳しい困難に明るく立ち向かう子供を描いた浅田宗一郎ですが、第三長編である本作では子供を障害と差別、そして死という究極の収奪に直面させました。
 なぜ障害があるというだけで蔑視されなければならないのか。その理由は、ただ単に多数派ではないからというだけです。多数派の優位性を確保するために障害者は蔑視されて当然という偏見がつくりだされているだけにすぎません。悲しいのは、被差別者の側が多数派のまなざしを内面化してしまい、自分を否定してしまうという事態が少なからず起きてしまうことです。この物語の主人公もまさにその問題を抱えていました。しかし彼は劣等感を克服し、ありのままの自分を受け入れる道を選び出します。ありのままの自分と言葉にしてしまうと安っぽく聞こえてしまいますが、そこに至る過程を浅田宗一郎は独特のユーモアのある語りと筋運びで丁寧に描き出しており、芯のしっかりした物語を紡ぎ上げています。
 ただし、浅田作品にはひとつだけ疑問があります。それはあまりにも少女を美化しすぎている点です。宗教説話を書きたいのであれば少女を偶像にする手法を取ってもかまいません。でも浅田宗一郎には現実を生きる子供を描くだけの力量があるはずですから、もっとかわいくない少女を登場させてもらいたいです。社会問題に直結した泥臭いリアリズムを書く力はここ数年に登場した新人の中では突出しているので、ぜひこの分野の第一人者と呼ばれるような作家に成長してもらいたいです。