- 作者: 甲田天,太田大八
- 出版社/メーカー: BL出版
- 発売日: 2008/02
- メディア: 単行本
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語り手は歌川広重の弟子の少年佐吉。ある日広重の家の庭に赤毛の男が現れました。彼はゴッホの幽霊で、歌川広重と葛飾北斎の絵が見たい一心ではるばる日本まで化けて出てきたとのこと。彼の熱意にほだされて、広重と佐吉、通訳の又三はゴッホを連れて北斎のいる信濃に旅立つことになります。
道中ではこれといった大きな事件は起きません。東海道中膝栗毛のような大笑いできるエピソードがあるわけでもない。ただ道中出会った人々や自然を穏やかな視線で素描していくだけです。それだけなのに読まされてしまいます。
ゴッホをはじめとする画家たちの絵に対する熱情を激しく描き出している点も見逃せません。彼らにとって絵画は人生の探求そのものです。北斎になぜ自画像を描くのかと問いかけられた時のゴッホの長台詞は圧巻でした。
作者の甲田天は1940年生まれです。遅咲きにもほどがありますが、デビューしたからにはぜひ続けて作品を発表してもらいたいです。
「いつか、ぼくは自分という者がわからなくなった。自分がなにをしようとしているのか。自分がどこへ行こうとしているのか。それを知りたくて、自分の姿を何十枚、いや、何百枚も描いてきたんだが……。シャラクだって、きっと人間を、もっともっと知りたかったんだと思う。シャラクは、自分が絵かきとして有名になることよりも、人間とはどんな生きものなのか、自分とはいったい何者なのか、知りたかったんだ。シャラクは絵師としての成功よりも、ぼくと同じように人間を描きつづけ、自分を知ろうとしたんだ、きっと……」(P190〜191)