「花火とおはじき」(川島えつこ)

花火とおはじき (ポプラ物語館)

花火とおはじき (ポプラ物語館)

 お棺の中に入ったおばあちゃんは、まるでお人形みたいに見えた。白い着物を着て、顔はきれいにお化粧され、生きていたときよりも、少し小さくなった感じ。なんだか、本物のおばあちゃんじゃないみたいだった。
 木魚って、のんきな音だな、とあいは思う。それに、おぼうさんのお経って、遠くで鳴いているかえるの声ににてる。(p9)

 2006年に「まんまるきつね」でデビューした川島えつこの第二作です。驚くべきことに彼女は、第二作にして自分の文体を確立しています。静かなリズム感のある淡々とした文章で、あたたたかさと憂鬱さが同居した世界をつくりあげています。読者はただ彼女の文章に身を任せて浸っているだけでかまいません。
 おばあちゃんの通夜の夜、小学4年生の少女あいは知らないお姉さんに連れ出されて夏祭りに出かけます。話の筋はこれだけ。なのに川島えつこの手にかかるとただ縁日を冷やかしたり花火を眺めたりするだけの話が輝いてしまいます。
 おもしろいのは、主人公のあいが死というものをおぼろげにしかわかっていないところです。たとえばおばあちゃんの死体が「古くなった牛乳やたまごみたいに」いたんでしまうと聞いてショックを受ける場面があります。金魚すくいをする場面ではあいはこんなことを思います。

 こんなにきれいなのに、お祭りの金魚の半分ほどは、、三日くらいで死んでしまう。
 まえの日まで、スイスイおよいでいたのが、朝の池にぽっかりういているのだ。てのひらにのせると、ぺたりとして、いやにかるくて、水の中で、元気におよいでいる金魚の方が、ふしぎに思えてくる。
 いったい、どんなまほうで、あの小さなひれやしっぽがうごいているんだろう……。(p45)

 しかし川島えつこは、わかっていないから命の大切さを説いてやろうという方向には向かいません。逆によくわからないなりの視点に寄り添って世界を見ることで、現実と幻想のあわいを見事に描き出すことに成功しています。