- 作者: 後藤みわこ,藤丘ようこ
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 2008/04
- メディア: 文庫
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戦後の児童文学は小人が登場するふたつのファンタジー長編「だれも知らない小さな国」(佐藤さとる)と「木かげの家の小人たち」(いぬいとみこ)が出版された1959年に本格的に始まったとされています。それだけ日本の児童文学にとって小人は大きな存在になっています。後藤みわこのこの作品には小人に牛乳を飲ませるシーンが出てきますが、これがいぬいとみこの小人物語をなぞったものであることは明白です。さて、後藤みわこはどんな新しい小人物語を語ってくれるのか。先が期待されるではありませんか。
さらに注目すべきなのは、どうやらこの小人が地底世界からやってきたらしいということです。カプリの説明によると地底世界「アタルンデス」の空は「オリハレポン」でできていて、そこには「太陽の光が通る道」があるのだそうです。後藤みわこは児童文学界では貴重なSF素養を持った作家です。その彼女が地底というネタをどう処理してくれるのか楽しみでなりません。
さて、絵麻は物語の序盤で、クラスのみんなの前で自己紹介をしなければならないという、内気な少女にはいささか荷が重い試練を受けることになります。ただし彼女は転校生というわけではありません。少子化のためにいままで通っていた西黒須小学校と隣の北黒須小学校が合併され、新しく黒須小学校になったためこのような試練が発生したのです。といっても彼女の住む黒須町は山奥の村や離れ小島というわけではなく、都会の真ん中にある都市です。衰退しつつある都市を描いているところがこの作品の大きな特徴であるといえましょう。
では、この黒須町がどういう都市なのかを見てみましょう。黒須町には地下鉄黒須線が走っていますが、黒須町ではこの電車の線路は地上の高架に設置されています。旧西黒須小学校と旧北黒須小学校の学区はこの線路とその下を通る道路によって分断されていました。露骨に意味ありげな設定ではありませんか。後藤みわこはなにをたくらんでいるのでしょうか。