「風の陰陽師三 うろつき鬼」(三田村信行)

風の陰陽師〈3〉うろつき鬼

風の陰陽師〈3〉うろつき鬼

 シリーズ第三弾。咲耶子が宮中に入り、母親も再婚して傷心の晴明は信濃国に下っていましたが、信濃守との折り合いが悪く、一年ほどで都に帰ってきました。都では藤原黒主が井上内親王の怨霊を利用して朝廷を乗っ取ろうとたくらんでいたり、信太の森では怪しげな新興宗教が流行していたりとトラブルの種は尽きず、またも晴明は戦いに巻き込まれます。
 「日本児童文学」2008年5・6月号の創作時評で芹沢清実が、晴明の超越的な力の源は「アジールとの往還」にある説明していました。

晴明の卓越した力の源泉は、ヒトとキツネの間に生まれたことにある。その力は、人間と自然、ふたつの世界を行き来することで強まり、あるいは回復する。(創作時評より引用)

 一方で晴明が二つの世界を往還するたびに喪失を繰り返していることも見逃せません。三巻では二巻で失った咲耶子と母親を再び別の形で失うという残酷な運命を与えられています。この喪失体験によって四巻の晴明がどう変容するのかが注目されます。
 主役の晴明以上に、蘆屋道満と鷺の友情の行方も気になります。今回も鷺のけなげさには泣かされてしまいました。