水の精霊〈第3部〉呪術呪法 (teen’s best selections)
- 作者: 横山充男
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2004/05
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る
虐げられた人間は時として現実離れした壮大な物語に共感してしまうものです。見橿早智が真人を自分の革命に勧誘したときの台詞に、彼女がどういった人間であるかがはっきりとあらわれています。
「山本くん。ほんとはわかってるんでしょ。わたしもそうだったけど、きみも徹底的にいじめやらシカトを経験してきたんでしょ。その中で、ふつうのひとには絶対見えないものを見たり感じ取ったりしてきたんでしょ。心の奥底で、なにかわからないけど自分は選ばれた人間だということを、感づいていたんでしょ。だから、ある種の力に目覚めた。他人が超能力だというような不思議な力があることに気づいた。」(p302)
この台詞からわかるように、見橿早智の物語は邪気眼と呼ばれる痛々しい誇大妄想の物語なのです。ここで思い出されるのは大槻ケンヂの電波系青春文学の傑作「新興宗教オモイデ教」です。これも見橿早智のようにカルトに依存して破滅した少女の物語でした。「水の精霊」は児童文学界だけを見渡すとなかなか類書がないので解釈するのが難しいのですが、このあたりの作品を補助線にするとわかりやすくなるかもしれません。
ところで「新興宗教オモイデ教」にも様々な超能力が登場するのですが、超常現象を認識するのはカルト信者だけなので、実は超常現象はすべて妄想の産物なのだという解釈が提示されています。「水の精霊」も同様の解釈ができるかもしれません。現に真人は見橿早智が儀式で起こした超常現象を「共同幻想」ではないかと疑っています。第二部の物語がテレビのプロデューサーが仕掛けたやらせであったことを考えると、真人の起こした奇跡にも疑惑がつきまとってきます。