「Twinkle ひかりもの」(令丈ヒロ子/他)

Twinkle―ひかりもの (teens’ best selections)

Twinkle―ひかりもの (teens’ best selections)

 令丈ヒロ子責任編集のアンソロジーです。

「バラの街の転校生」(後藤みわこ)

 タイトルの通り後藤みわこお得意の転校生ものです。いつものことながら教室を強引にコントの舞台にかえる手腕は見事なものでした。

「めっちゃ、ピカピカの、人たち。」(令丈ヒロ子

 石崎洋司責任編集のアンソロジー「Fragile」に収録されていた「あたしの、ボケのお姫様。」の続編です。

「蛍万華鏡」(寮美千子

 奈良を舞台にした「きみ」と「ぼく」の美しい恋愛小説です。ふたりを引き裂きそうになるある困難については、この作品での扱いは興味本位の域を出ていないので、その点では論評する必要はありません。しかしおとぎ話としては最高級の出来です。寮美千子はこういうのを書かせたら本当にうまいです。

「rolepley days」(ひこ・田中

 このアンソロジーでわたしがもっとも楽しみにしていたのは、寡作のひこ・田中の新作が読めることでした。もちろん期待が裏切られることはありませんでした。
 中学生の「ボク」が、なんとなくつるんでいる5人組で街を歩いていたときにヤクザのおっさんに絡まれた事件なんかをきっかけに、「トモダチ」との関係性を見つめ直すストーリーです。携帯電話の機種名を羅列するなど5年先にはわからなくなりそうな細部の書き込みにこだわるところが彼らしいです。

ボクたちは、女の子に興味はあっても、女の子が興味を持っている物には興味がない。

ボクは、女の子が、ボクと同じようにときどきすけべなことを考えて男を見ているって想像したくない自分に気づいた。

 このように男子と女子の断絶をみもふたもない表現で明らかにする技もひこ・田中ならではです。
 注目すべきは、「ボク」の匿名性です。一人称の語り手の彼は「トモダチ」から名前で呼びかけられることのないため、最後まで名前が明らかになりません。
 名前に関してはもうひとつ問題があります。「ボク」はSNSで「レイ」と名乗っています。「ボク」はファーストガンダムが好きだという記述があるので、これはその主人公にちなんだものだととらえて間違いないでしょう。ところが彼の「トモダチ」にはセツナとセイエイという少年がいるのです。こちらはガンダムシリーズの最新作の主人公の名前です。作中人物による名付けと作者による名付け、ふたつの次元の違う名付けに同じ法則が働くというのは不自然で、作者のたくらみが感じられます。はっきりといえるのは、この不自然な名付けによって作品の虚構性が強調されるということぐらいでしょうか。やはりひこ・田中は油断ならない作家です。ぜひまたもっと長い作品も書いてもらいたいです。