- 作者: 岡田晴恵
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2008/10
- メディア: 単行本
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おもしろいのは、著者が明らかに病気側に肩入れしているところです。人間の味方であるはずの薬の魔女よりも敵方の病気の魔女の方が生き生きと描かれていて人間くさく感じられ、親しみが持ててしまいます。
病気の魔女たちが集団でワルプルギスの祭りを欠席して、薬の魔女に立ち向かうために決起集会を開くところから物語は動き出します。そのころ病気の魔女側は薬の魔女のカビを使った新薬(ペニシリン)に悩まされ、そのうえお頭のポックス(天然痘)の魔女も行方不明になっており、薬の魔女にだいぶ水をあけられていました。
集会ではペストの魔女やコレラの魔女ら、歴戦の勇者たちが気を吐いていました。その中に場違いな少女の魔女がいると思ったらこれがサーズの魔女。彼女が世界中を震撼させたのは記憶に新しいですが、この中では彼女はみそっかす扱いで、2003年に流行を起こしたもののすぐにサボりだしたことをペストの魔女に責められてしまいます。しかしサーズの魔女も負けてはおらず、2003年の件は自分にとっては修学旅行のようなものだったのだとうそぶいて周囲をあきれさせます。
マラリアの魔女の使い魔は蚊でチフスの魔女の使い魔はシラミ、病気を媒介する生物を魔女の使い魔にするなど細かいネタでも楽しませてくれます。
集会ではインフルエンザ姉妹のH5の魔女を派遣して4億人を殺害する計画が立てられ、この後薬の魔女が鳥インフルエンザと戦う物語が展開されます。
このように擬人化されると病気の魔女たちの小悪党っぷりが愉快に思えてしまい、読者も思わず病気の方を応援したくなってしまいます。著者の病気に対する思い入れも尋常ではなく、しまいにはチフスはナポレオン戦争を終結させ、スペイン風邪は第一次世界大戦を終結させたのだと病気をたたえてしまいます。ここまでだったら確かに歴史を見ればそういう見方もできなくはないので問題ないのですが、さらに病気には人間の暴走を戒める役割があるとまで言い切ってしまったのはさすがにやりすぎだと思います。