「菜子の冒険 猫は知っていたのかも。」(深沢美潮)

 聞いたことのないタイトルだったので新作だと思ってたら、富士見ミステリー文庫創刊ラインアップからのリサイクルだそうです。このところ講談社の「YA!ENTERTAINMENT」 は「十角館」や「創竜伝」の新装版を出したりしていて、路線変更を図っているようです。
 まあ「創竜伝」に関しては早く続きを書くように作者のケツをたたく意図のほうが大きいかもしれません。昔からのファンの財布からこれ以上金を搾り取るのは酷だし、新規読者にちゃんと完結するかおぼつかない作品はおすすめできないし、読者側にとってはあまり利益のない新装版といえそうです。
 一方、深沢美潮の新装版は喜ばしいことです。ライトノベルはすぐ書店から姿を消してしまいますから、残るべき作品がこういうかたちで延命できればいうことはありません。ただし欲をいえば、ライトノベルをそのまま取り入れるのであれば、児童文学の弱点を補う方向でやってもらいたいです。つまり、現在児童文学界で存在感を失っているSFを救命してもらいたい。たとえば小林めぐみ野尻抱介あたりのライトノベルSFを「YA!ENTERTAINMENT」なり青い鳥文庫の「fシリーズ」なりに移植してもらえれば少しは児童文学SFも活性化するのではと思うのですが、いかがでしょうか。
 前置きが長くなってしまいました。「菜子の冒険」に戻ります。主人公は売れっ子ミステリー作家を母に持つ16歳の少女菜子。彼女は近所に住む偏屈ばあさんの様子がおかしいことに気づき、彼女が誰かと入れ替わっているのではないかという妄想じみた疑いを抱きます。そこで母親に奴隷のようにこき使われている青年編集者仁を助手にして、入れ替わりの真偽とその目的を探ることにします。
 根っからの悪人は出てこない穏やかなお話で、そのまま青い鳥文庫はやみねかおる松原秀行の隣に並んでいてもおかしくないような作品でした。