「走れ!半ズボン隊」(ゾラン・ドヴェンカー)

走れ!半ズボン隊

走れ!半ズボン隊

 なんとも人を食ったホラ話がドイツからやってきました。
 この本はカナダ人が書いた本を翻訳したという触れ込みでドイツで出版されたのですが、そもそもそれが大嘘でした。実はドイツの作家ゾラン・ドヴェンカーが書いていたのです。日本語版の前書きによると、彼は架空のカナダ人作家の名前とプロフィールをでっち上げて、さらに実際する翻訳家の名前を借用して自分の作品を発表したそうです。しかも名前を貸しただけの翻訳家がこの作品で翻訳の賞をとってしまったというオチまでついています。
 ある英雄的行為をして半ズボン隊と呼ばれたたえられることになった4人の少年がそれぞれ自分の武勇伝を語るという形式で物語は進みます。トップバッターのルドルフォの語ったエピソードは、猛吹雪で学校の校舎が崩壊するというもの。最初からぶっ飛ばしています。
 事件はルドルフォたちが学校の地下体育館でバスケットボールをしていたときに起きました。吹雪で校舎が吹っ飛ばされてしまい、地下にいた人間だけが取り残されてしまったのです。学校は丘の上にあり、極寒の中でふもとの町まで助けを求めに行くのは自殺行為、ちょっとした漂流教室になってしまいました。ちょうど間の悪いことに、彼らは運動中だったので体操着しか着ていませんでした。着替えのある更衣室は地上にあったため、当然彼らの防寒着は校舎と運命をともにしています。それでも彼らは決死の覚悟で助けを求めに走り、英雄的行為を成し遂げます。
 地下に体育館があるのは珍しいですが、作者はそこにもちゃんと手の込んだ説明を加えています。学校の建物は元は刑務所で、体育館は地下牢だったというのです。
 こんな(いい意味で)ふざけた本を翻訳した酔狂な出版社はどこかと思って読了後に確認したらなんと岩波書店。さすが老舗は違います。