この作品は、学級委員選挙で自分は入れていないのに自分に一票だけ票が入るという導入のエピソードで、一気に読者のテンションをどん底に落としてくれます。そして中盤は自分の望みを娘に押しつける母親や家にいられず友達の家を泊まり歩く少女といった、ありがちながら重いネタを繰り出していき、最後は力業で物語をぶん投げてしまいます。ブラック梨屋全開の傑作で梨屋アリエを語る上で欠かせない作品だったので、こうして手に入りやすくなったのはありがたいことです。
「竹ってね、木の幹みたいに太っていかないんだってね。太さは生まれたときからずっと変わらないんだって。高さもだいたい同じだし、最初から太さも決まっているって、どんな気分なんだろう?」
「気分?」
「ほかよりも高く太くならなくちゃって考えなくてもいいって、気楽だと思わない?」
お父さんは、ふふっと軽く笑い、それから少し寂しげな顔をしていった。
「一つの場所に密集して生えていれば、気楽になるだろうな。でも、なかには細すぎて倒れたり伸びすぎて頭が飛び出ないよう、がんばって合わせているやつがいるのかもしれないよ」
(p134−135「タケヤブヤケタ」より)