「金原瑞人YAセレクション みじかい眠りにつく前にI 真夜中に読みたい10の話」(金原瑞人/編)

 ピュアフル文庫のアンソロジー有島武郎いしいしんじ魚住直子江國香織恩田陸角田光代鷺沢萠寺山修司梨屋アリエ楡井亜木子の短編が収録されています。単行本や文庫に初めて収録された作品もいくつかあるということで、これだけの作品を発掘した金原瑞人およびピュアフル文庫編集の視野の広さには瞠目せざるを得ません。特に「ぱろる」が初出の梨屋アリエの初期短編「タケヤブヤケタ」を入れた慧眼にはおそれいります。
 この作品は、学級委員選挙で自分は入れていないのに自分に一票だけ票が入るという導入のエピソードで、一気に読者のテンションをどん底に落としてくれます。そして中盤は自分の望みを娘に押しつける母親や家にいられず友達の家を泊まり歩く少女といった、ありがちながら重いネタを繰り出していき、最後は力業で物語をぶん投げてしまいます。ブラック梨屋全開の傑作で梨屋アリエを語る上で欠かせない作品だったので、こうして手に入りやすくなったのはありがたいことです。

「竹ってね、木の幹みたいに太っていかないんだってね。太さは生まれたときからずっと変わらないんだって。高さもだいたい同じだし、最初から太さも決まっているって、どんな気分なんだろう?」
「気分?」
「ほかよりも高く太くならなくちゃって考えなくてもいいって、気楽だと思わない?」
お父さんは、ふふっと軽く笑い、それから少し寂しげな顔をしていった。
「一つの場所に密集して生えていれば、気楽になるだろうな。でも、なかには細すぎて倒れたり伸びすぎて頭が飛び出ないよう、がんばって合わせているやつがいるのかもしれないよ」
(p134−135「タケヤブヤケタ」より)