ウェストールをいくつか

ゴーストアビー (YA Dark)

ゴーストアビー (YA Dark)

マギーはあとずさりした。大人って、だれでもどこかおかしいものなの?ジャーマンさんは幽霊を信じているし、パパは現実から逃げてばかりいるし、ミズ・マクファーレンはお金より信念を大事だと思っている……。(p106)

ゴーストハウスを舞台にしたホラーです。幽霊よりも普通の人間のありふれた狂気が怖かったです。ホラーの名手ウェストールらしい作品でした。

"機関銃要塞"の少年たち (児童図書館・文学の部屋)

1975年に出版された、ウェストールのデビュー作です。「水深五尋」の刊行に合わせて再読しました。
戦時下のイギリスの海辺の町を舞台として、非日常を日常として生きる少年たちの物語が、敵兵との交流を軸として語られます。戦時下といっても悲惨なことばかりが語られるわけではありません。少年たちは秘密基地めいたものを作ったり、空の薬莢をコレクションしたりと、妙に状況に適応して、それなりに楽しみを見つけて生きてます。このあたりのリアリティに説得力があり、大人への反抗というテーマにも強度が与えられています。
水深五尋

水深五尋

1943年のイギリスの港町が舞台。16才の少年チャスが波止場で発信器を見つけ、ドイツ軍のスパイのものではないかと疑い、スパイ捜しを始めます。そこに治安判事の娘シーラが関わってきて、チャスは身分違いの恋にも悩まされることになります。
スパイ事件と身分違いの恋を通して、チャスは大人の世界の壁にぶち当たります。この体験を苦く苦く描いているところがこの作品の味です。「機関銃要塞の少年たち」に匹敵する少年小説の傑作であると言い切って間違いないでしょう。

人生とは闘いながらのぼっていくものだと、ずっとまえからわかっているつもりだったけれど、鳥のように自由に羽ばたいてのぼっていくものと思っていた。ところが、シーラと出会ってから、人生は山のぼりのように思えてきた。頂上には、すでにそこに到達した重要な人たちがいる。どんなにうまく山をのぼっても、その仲間には入れてもらえない。そして、もしのぼり方を間違えれば、頂上からけおとされ、さんざんな目にあわされる。
(p271)

ロバート・ウェストール (現代英米児童文学評伝叢書)

ロバート・ウェストール (現代英米児童文学評伝叢書)

副読本としてこちらも。これによると、「水深五尋」はもともと「機関銃要塞の少年たち」の続編として出版されたのではなく、初版では主人公の名前もJack Stokoeとなっていたそうです。しかしアメリカ版で主人公の名前がチャスとされ、その後のイギリス版でもそれが踏襲されて、続編扱いされるようになったそうです。