栗本薫の児童文学界への影響(JUNE的な意味で)について、そろそろ検証されてもいいと思う。

そろそろ涙は拭おう。「豹頭王の花嫁」が読めなくなってしまったのは寂しいけれど、彼女がこの世界に遺してくれたものにこそ目を向けてみようじゃないか、というのがこの記事の趣旨です。
児童文学をある程度読んでいる人間であれば、女性作家によるBL要素のある作品が無視できない存在になりつつあることを、おぼろげながらも感じているはずです。栗本薫がいなければ存在し得なかったであろう児童文学界のタナトスの子供たちの活躍を簡単に見ていきましょう。

ぼくの・稲荷山戦記

ぼくの・稲荷山戦記

まずは栗本薫の弟子であるたつみや章秋月こお)に触れないわけにはいかないでしょう。たつみや章名義では児童文学作家として、秋月こお名義ではBL作家として活躍しています。たつみや章名義では「ぼくの・稲荷山戦記」で第32回講談社児童文学新人賞を受賞し、1992年に単行本デビューしています。驚くべきことに「ぼくの・稲荷山戦記」は、同時に中島梓の小説道場にも投稿されていました。たつみや章名義の作品ではもちろん露骨な性描写はありませんが、男性同士の関係性に妄想の余地を持たせる書き方をしていることは間違いありません。
バッテリー (教育画劇の創作文学)

バッテリー (教育画劇の創作文学)

次に取り上げる作家は、あさのあつこです。代表作は大ヒットした野球小説「バッテリー」です。「バッテリー」の漫画版がAsukaで連載されていることを考えると、そういう作品として少女読者に受け入れられたことがヒットの要因のひとつであったことは間違いないといえます。現在継続中の近未来SF作品「NO.6」では、「バッテリー」より露骨に男性同士の恋愛関係を連想させる書き方をしています。
森絵都の「DIVE!!」や佐藤多佳子の「一瞬の風になれ」など、「バッテリー」以降女性の児童文学作家による魅力的な少年が多数登場するスポーツ小説のヒット作が目立っています。これらの作品も同様の消費のされ方をしている可能性があります。
ぼくのプリンときみのチョコ (YA! ENTERTAINMENT)

ぼくのプリンときみのチョコ (YA! ENTERTAINMENT)

個人的にこの分野でもっとも注目すべきと感じている作家は、後藤みわこです。彼女は作中で平然と腐女子という言葉を使い、美少年に対する興味を隠そうとしません。2005年の「ぼくのプリンときみのチョコ」には、男子に片思いする男子が登場します。と同時に、身体のある部位だけを入れ替わりさせるという特殊な設定で、男女の入れ替わりテーマを先鋭化させ、思春期の性の問題に鋭く切り込んだ野心作にもなっています。
わたしはBLに詳しい人間ではないので、この程度表面的な現象をまとめるのが限界です。でもこの傾向は現代児童文学を語る上で見逃せないものであると感じているので、児童文学とBLの両面に詳しい評者が本格的な研究を始めるのを待ちたいと思います。