「科学探偵部ビーカーズ!2 激突!超天才小学生あらわる」(夏緑)

科学探偵部ビーカーズ!〈2〉―激突!超天才小学生あらわる (ポプラポケット文庫)

科学探偵部ビーカーズ!〈2〉―激突!超天才小学生あらわる (ポプラポケット文庫)

結論から申し上げましょう。全国の小学校の先生は、児童にこのシリーズを読み、教育テレビの「マリー&ガリー」を見るように指導すべきです。
作中でも触れられていますが、2009年はガリレオが望遠鏡で天体観測をしてから400年、世界天文年に定められています。7月22日には皆既日食という重大な天文イベントもあります。6月11日には月周回衛星「かぐや」が任務を終えて月面に落下するという出来事もありました。こういう機会にこそ大人は科学のすばらしさを子供に語ってきかせなければなりません。そこでこの「科学探偵部ビーカーズ!」の出番ですよ。
東京都才円巣区立野辺流小学校の科学探偵部に所属する天才発明少年孫エイジと天才推理少女胡瓜マリの活躍を描いた「科学探偵部ビーカーズ!」シリーズ第2弾です。今度は下級生の失踪事件が発生し、またも科学探偵部が出動することになります。
物語の冒頭、孫エイジは研究室を爆発させます。マッドサイエンティストのラボが爆発するのはなぜか?この疑問に対する答えは「お約束だから」の一言で片付けて全く問題ありません。しかし夏緑は、床に落ちてたゴミくずにルーペの焦点がたまたまあって引火したという説明を与えます。そしてこの知識を、その後訪れるピンチを切り抜ける際に活用するのです。あらかじめ布石を打っておいて、それをのちにうまく活用する。この巧みな構成で、読者は素直に「科学すげえ」「人間の知恵すげえ」という感想を持たされてしまいます。焦点を合わせることで火をおこせるというという知識、そして自爆機能のついたドリルと強力な撥水スプレーがどんな役に立つのか、これは実際読んでみてのお楽しみです。
上記の通り、このシリーズは科学の魅力を伝えるのに最適なのですが、教育的な側面だけを持ち上げていては作品の本質を見失ってしまいます。作者がライトノベル出身だけあって、エンタメとしてしっかりしていることも強調しておかなくてはなりません。ストーリー展開のおもしろさととキャラクターの魅力を味わうだけでも、この作品は充分楽しめます。
主人公の孫エイジは、「か、勘違いしないでよね!べ、別にあんたのためにやったわけじゃなんんだからね!」が口癖の、絵に描いたようなツンデレ少年です。もうひとりの主人公、天才推理少女の胡瓜マリは、天才で美少女で良家のお嬢様でそのうえ武道までたしなんでいるという高スペックぶり。キャラ造形としてはベタではありますが、そのベタさがうまくはまっていて、ふたりの夫婦漫才は非常に愉快です。
そんなわけで今年は、「科学探偵部ビーカーズ!」を牽引役として理系児童文学が盛り上がる年になってもらいたいと思います。