「龍の腹」(中川なをみ)

龍の腹 (くもんの児童文学)

龍の腹 (くもんの児童文学)

時は鎌倉時代。博多で反物を扱う大店の主を父親に持つ太郎が主人公です。太郎の父は宋の焼き物の技術を習得したいという夢を持ち、幼い太郎を連れ宋に旅立ちます。そして父は太郎を陶工にするため宋に置き去りにし、希龍という新しい名前を与えました。国境を越えたスケールの大きな児童虐待から、物語はスタートします。
はじめは父の希望で無理矢理陶工の修業をさせられたものの、希龍はだんだん焼き物作りの魅力に目覚めていき、立派な青年に成長します。そして父親との再会を果たしますが、日本へは帰らず宋で陶工として生きていく道を選びます。しかしそのころはフビライが勢力を拡大している時期で、戦乱が希龍の運命をもてあそびます。
これ以上あらすじをだらだら紹介する必要はないでしょう。頼るもののいない異国で戦時下を生きるという厳しい運命を与えられながら、芸術家として強く生きようとする青年の人生が見事に描き出された良作です。とりあえず読んでおいて間違いはありません。