「バターサンドの夜」(河合二湖)

バターサンドの夜

バターサンドの夜

第49回講談社児童文学新人賞受賞作。主人公の赤羽明音は他人にあまり興味がなく、とりあえずクラスのあぶれものグループに所属している中学一年生の少女です。彼女は駅前の本屋で若い女に「モデルやらない?」とスカウトされます。女は服飾デザイナーでネットショップを開こうとしており、そのためにモデルを探していました。本来ならそんな怪しい誘いには乗らないのですが、好きなアニメのコスプレ衣装を作ってもらいたいがために引き受けてしまいます。やがて女の服が売れ出し、明音がモデルをしている写真が雑誌にも紹介されるようになります。するとクラスの派手なグループから誘いを受けるようになり、あぶれものグループは解体してしまいます。
いかにも講談社児童文学新人賞という感じの作品で、人間関係の難しさや、思春期の痛々しい心情の描写はうまいです。
どきっとするような印象的な言葉がいくつかありました。ひとつは、明音が自分と相性が合うと思い込んでいた祖父に拒絶される場面の、「わたしたちは、お互いにとって、大事な大事な……お客さんだ。」という一文。人間関係のままならなさに対する絶望を実に簡潔に残酷に言い表しています。
もうひとつ印象に残ったのは、派手グループと決別し元の鞘に収まろうとする時に、派手グループから「あんな下流の人のところへ行くんだ」と言われた時の「下流って、どっちのこと?わたし、方向オンチでよくわかんないや」という台詞です。このふてぶてしさには感服させられました。