- 作者: 草野たき
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2009/09
- メディア: 単行本
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「神様の祝福」
森田真奈美は中学生になって子供時代から苦しめられてきたぜんそくが快方に向かったのを機に、いろんなことに挑戦しようとしていました。でも彼女の思惑はすべて裏目に出ます。まずはバドミントン部に入ったのですが、みんなの気を引くために試しに退部届を出したら、誰からも引き留められずあっさり受理されてしまいました。次は役者を募集していた演劇部に入ったのですが、最後までよそ者扱いで、公演が終わったら打ち上げにも呼んでもらえず放り出されてしまいます。今度は環境を変えて、塾で彼氏をつくろうと意気込むのですが、空回りしてストーカー扱いされることになります。
社会性の乏しい子が周りからないがしろにされてひどい目に遭う話なので、読んでいていい気分にはなりません。しかし、真奈美は失敗してもそこから学んで次に生かそうとする前向きな姿勢を持っているのが救いになります。卒業式の前日に真奈美が一人反省会をする場面は涙無しには読めません。
「ヒーロー」
デブでブスな河上里美は、自虐ネタでクラスメイトを笑わせる女版伊集院光みたいなやつです。彼女はあえてクラス内の派閥に所属せず、ヒーローとしてクラスの治安を守るためにあえて笑いものになっていました。彼女こんな役割を引き受けたのは、小学校時代の苦い教訓によるものでした。学級崩壊していたクラスの担任が、「先生が面白いもの見せてあげる」といって飛び降り自殺未遂を起こしていたのです。この後クラスは穏やかになったので、里美は「面白いもの」を見せれば治安は守れると確信してしまいました。
私は今でも「面白いものを見せてあげる」といってやってくれた、先生のあの行為が、学級崩壊をおわらせたのだと信じています。
身体をはって面白いものを見せれば、クラスはおだやかになる。つまり、こわれたりしないのですよね。
クラスを崩壊させないために自分を笑いものにすることが、正しい方法じゃなくてもいいと思うんです。
そのために身体をはることが、まちがった方法でもいいと思うんです、
私のいるクラスだけは絶対に崩壊させない。
その使命を負うことが、あのとき先生の味方になれなかった自分ができる、ゆいいつのつぐないだと信じています。(p74〜75)
彼女は自分のしていることが間違っていることは自覚しています。それでも信念を貫こうとする彼女のしぶとさは賞賛に値します。草野たきは新しいヒーロー像を作り上げてしまいました。
「ランチタイム」
田舎で中二病をこじらせるといかに大変かというお話です。
「さつきさん」
佐竹瑞穂は年が20歳離れたいとこのたかしちゃんを憎からず思っていました。ところが今まで全然モテなかったたかしちゃんにさつきさんという彼女ができてしまいます。さつきさんはたかしちゃんの前では猫をかぶっていますが、瑞穂はその本性を知ってしまい、二人の仲を裂こうと画策します。しかし事態は思いもよらぬ方向に進みます。実はたかしちゃんはふたまたをかけていて、さつきさんがふられてしまったのです。
最後に恋愛に対する幻想を完膚無きまでに破壊して、短編集の締めくくりとしました。やはり草野たきは恐ろしい人です。