「復活の日」(小松左京/原作 新井リュウジ/文)

小松左京の傑作SF「復活の日」が、新井リュウジのリライトで児童文学として生まれ変わりました。
謎の病原菌MM−88によって人類が滅亡しようとしている中で、病原菌の届かない南極に取り残されたおよそ一万人の人々が人類の再生を模索する物語です。
人類は自ら生み出した生物兵器核兵器によって滅亡の危機を迎えます。小松左京は自らの首を絞める人類の狂気を悲壮感たっぷりに描き出しました。一方で、そうした愚行を理性の力で克服しようとする人類の美しさも訴えています。人間の光の面と闇の面の戦いを神話的なスケールで語り上げています。
新井リュウジによる「翻案」版では、児童向けということでわかりやすさを重視した語り方がなされているようでした。原作ではMM−88やARSの正体を隠して謎解き的な興味を持たせていましたが、新井リュウジ版では逆に早めに情報を開示することで知的好奇心に訴えかけることを意図しているようです。
また、児童向けなので南極の極端な男女比の不均衡がもたらす悲劇については詳述されず、「理性」の力でなんとかしようと訴えただけにとどまっています。原作にも「セックスが人生の重大事みたいに考えるのは、小説家の迷妄ですよ」という台詞があるので、この改変は原作の意図を損なうものとは考えなくてもよいでしょう。よい翻案であったと思います。
児童文学界でSFは売れないと言われ続けて久しいですが、面白い作品を手に届くところにおいておけばSF者が育たないはずがありません。福音館書店も11月に小松左京の短編集を出すようです*1。未来のSF者を育てるために、児童書棚にこうした本を増やしてもらいたいと切に願います。

*1:その前に9月の予定だったはずの「ボクラノSF」第2回配本の続報が一向に入ってこないのが気になりますが。これが「ボクラノSF」第2回配本だったようです。なんできちんと告知しなかったんだろうか。