「飛べ! ぼくらの海賊船」(鷹見一幸)

鷹見一幸の作品を読むのはこれが初めてです。「銀河乞食軍団」の新シリーズを書いている人ですね。気にはなっているのですが、まだ手を出せずにいます。なにぶん元が野田昌宏大元帥なものですから、イメージを壊されるのが怖くて。とはいいつつも、ちまたの評判は悪くないようなので、そのうち読むことになると思います。
さて、鷹見一幸の初児童文学ですが、結論から申し上げると傑作です。健全で良質な少年の成長物語でした。
主人公は少し病弱な小学6年生の少年リョースケ。彼は夏休みを利用して九州のおじいさんの家に遊びに来ていました。さっそく同じ年のまたいとこの藍(親戚が酒の席で勝手に決めた婚約者)とその弟のススムと打ち解け、楽しい夏休みになりそうな予感がします。ところが藍とススムは、リョースケに隠れておじいさんの弟の源三郎おじいさんとなにか秘密の活動をしている模様。リョースケはこっそりふたりの後を付けて源三郎おじいさんのところに向かい、かけがえのない宝物を発見します。こうしてリョースケの一夏の冒険が幕を開けます。
この作品には少年の成長に必要なものが贅沢に詰め込まれています。源三郎おじいさんは少年に知恵と知識と技術を授けてくれる老人です。藍は生涯を共に歩む伴侶。ススムは自分より弱い守るべき存在です。こういった人物に囲まれ、さらにいなかで自分のルーツまで発見してしまえば、少年はまっすぐ成長しないわけにはいきません。
少年の成長という普遍的なテーマを一気に読ませるエンターテインメントとして見事に仕上げた良作です。鷹見一幸にはこれからも児童文学を書き続けてもらいたいと思います。
ただひとつ気がかりなのは、レーベルが角川つばさ文庫なため、本を媒介する大人がこの本の希有な健全さに気づいていない可能性が高いことです。この本はぜひ学校図書館においておくべきです。