「霊界交渉人ショウタ1 音楽室の幽霊」(斉藤洋)

霊界交渉人ショウタ〈1〉音楽室の幽霊 (ポプラポケット文庫)

霊界交渉人ショウタ〈1〉音楽室の幽霊 (ポプラポケット文庫)

斉藤洋の新シリーズです。パッケージはいかにも今風のライトノベル児童文学ですが、中身はいつも通りの斉藤洋です。
建設会社の重役を父に持つ少年渉太が主人公。父親が手がけている小学校の工事現場で怪奇現象が発生します。父親は、渉太には霊感があるからちょっくらお化けと交渉して立ち退かせてくれと、軽いノリで息子を夜の学校に派遣します。
というわけで、主人公はネゴシエイターです。十年くらい前のアニメに、ネゴシエイターを名乗りながら交渉が決裂すると巨大ロボットを呼び出して暴力で問題を解決する男が出ていましたが、そういうのは例外のはず。では、渉太の交渉術を見てみましょう。

「うちのおやじの組織には、コンクリートミキサーなんて、売るほどあるんだ。だから、きみをコンクリートでかためて、東京湾にしずめてしまったら、きみはどうするんだ。」(p52)

立ち退かなければコンクリート詰めにするという、実に伝統的で優雅な交渉術を披露してくれました。このように、平然と倫理や良識を逸脱してみせるのが斉藤洋の持ち味です。ちなみに、斉藤洋作品にはかたぎではない人がわりと普通に登場します。渉太はハッタリのつもりでこの取引を持ちかけましたが、父親の建設会社が本当にそのような組織である可能性も否定できません。
本作には学校の妖怪としてトイレの花子さんが登場しますが、彼女はコスプレマニアです。このあたりは最近の流行を意識しているようにも見えます。ところが斉藤洋は、あろうことか花子さんにナチスの軍服コスプレをさせてしまうのです。ここにも斉藤洋の過剰さが出ています。
パッケージをありがちなものにしたことで、作家のアクの強さが強調される結果となっています。ライトノベル児童文学はこういうものも平然と紛れ込んでいる奥深い世界なのです。