「友情リアル」(はやみねかおる・ 立石彰・福田隆浩・坂元純)

YA!アンソロジー 友情リアル (YA! ENTERTAINMENT)

YA!アンソロジー 友情リアル (YA! ENTERTAINMENT)

「初恋リアル」と対になる、講談社児童文学新人賞出身の男性作家によるアンソロジーです。「初恋リアル」の方がいい具合に病んでいたので、男性作家には安心できるような作品を期待していたのですが、こちらも一筋縄ではいかないものばかりでした。

「打順未定、ポジションは駄菓子屋前」(はやみねかおる)

2年生になってもグラウンドの外の駄菓子屋前で球拾いをさせられている野球部員が主人公。駄菓子屋では希有な才能がありながらトラブルを起こして野球部を追放された同級生がいつも油を売っていました。主人公は彼の幼なじみの女の子に片思いしていたので、女の子の喜ぶ顔見たさに彼が野球部に復帰できるように手助けをすることになります。
主人公がなにひとつ報われないところがすばらしいです。はやみねかおるといえば探偵や怪盗といったスーパーヒーローが活躍するお約束通りのエンターテインメントがまず思い浮かびます。しかし一方で、逆立ちしてもスーパーヒーローにはなれない報われない子供へ優しさを向ける面も忘れてはなりません。できれば一回この路線で長編をひとつこしらえてもらいたいと思います。

「マリモの携帯ストラップ」(立石彰)

はやみね作品に続いて三角関係の話。もし2作続けて好きな女の子を友達にとられる話になるとしたら講談社系の男性作家は女性作家とは別の意味で病んでいることになるなと、途中までおびえながら読んでいました。でもこちらは収まるべきところに収まってくれました。類型的ながらよくまとまった作品になっていました。

「Boy Fight」(福田隆浩)

類型的といえばこちらも類型的な作品です。ボクシングをしている少年たちが主人公で、ボクシングをハングリーなスポーツと捉えているところが古くさい感じは否めません。しかし様々なハンディキャップを持つ子供が懸命に生きる姿を骨太に描き出しているところはさすが福田隆浩です。

「エデンへ……。」(坂元純)

このアンソロジーで一番インパクトのあった作品です。まず思い切った設定が目を引きます。舞台は水産高校の遠洋漁業実習船。女人禁制のはずの漁船になぜか船医が美少女をひとり連れ込んでいました。主人公の少年は衛生係の立場を利用して少女に近づき、思いもよらない運命に巻き込まれることになります。
漁船に病弱美少女を放り込むという設定は頭のねじが飛んでいるとしか思えません。その後の展開もまた荒唐無稽でものすごい。異常なシチュエーションで極限状態下での友情のあり方を思考実験しようという意図はわかりますが、いろいろ無理があって個々のエピソードがうまくつながっておらず韓ドラのようなシュールな作品になっています。しかし荒削りな凄みは伝わってきます。成功しているか失敗しているかでいえば限りなく失敗作に近いのですが、妙に気になる作品ではあります。もしかしたらこのネタで長編にしたらおもしろくなるかもしれません。