「嵐の中の動物園 三日月小学校理科部物語1」(川端裕人)

「世界はファンタジーよ。不思議なことだらけだわ」
「でもね、しっかりと筋道たてていけば、真実にたどり着ける。だから、ウサギが不思議の国に誘っているのだとしても、ちゃんと追いかけていけばいいの」(p48)

校舎の2、3階に不審な足跡が付いていたという事件の謎を追っていた小学5年生の四人組が、なぜだか理科部に勧誘されあれよあれよという間に10年前にタイムスリップ。嵐のまっただ中の動物園で、理科部の6年生ふたりを含めた子供6人だけで動物を保護しなければならない事態に追い込まれてしまいます。
実はやっていることは動物の飼育という地味なことなのですが、細部を丁寧に書き込んで知的好奇心を刺激し、さらに嵐の中という状況設定で緊迫感を味付けに加えることで、さくさく読める楽しい読み物に仕上げられています。
登場人物ではエコ部(環境保護部)に所属する七実が興味深いです。彼女はエコ部の先輩から理科部は残酷な動物実験をしているとか、実験の廃液で環境破壊しているとか、エコ部の温暖化対策活動を批判しているとかいろいろ吹き込まれていて、理科部に対し敵意をむき出しにしています。ここで作者がどんな人物かを思い出してみましょう。川端裕人は理系の人で、教育現場にニセ科学を持ち込む動きと戦った武勇伝で知られています。なのでこの作品も、一般人の科学に対する無理解にどう対処するかという問題がテーマのひとつになっていくことが予想され、先が期待されます。ただ、今のところ七実が手のつけようのない愚か者として描かれているのがちょっと不憫です。彼女にはなんらかの救済措置を用意してもらいたいところです。