「ガツン!」(ニック・ホーンビィ)

ガツン!

ガツン!

ぼくが生まれたのは、母さんと父さんが避妊しなかったからだ。だからぼくは、母さんはバカだけどぼくは運が悪かっただけだ、と答えたかった。しかしそんなことを口に出すのは得策じゃない。第一ぼくはもう、自分がバカなのかどうか判断できなくなっていた。きっと大バカなのだろう。しかしコンドームの包みには、「警告!本品ご使用の際はIQが十億必要です!」なんて書いていなかった。
(p250)

主人公はロンドンに住む15歳の少年サム。32歳の若い母親を持つこと以外は普通のダメなティーンエイジャーだった彼ですが、パーティーで知り合ったアリシアという少女と仲良くなってから運命が変わります。アリシアが妊娠してしまい二人の将来は真っ暗。そんな折にサムの母親まで子供を作ってしまい(もちろん父親はサムの実父ではない)、サムとアリシアの子供から見れば自分より年下のおじかおばができるという笑えない状況が生じてしまいます。
この作品のおもしろいところは、子供ができたからといってサムがいい子になったり成長したりしないところです。サムはいつまでたってもダメ人間のままで、爆笑ものの迷セリフを連発します。たとえば最初に引用したいまいましいコンドームに対するやつあたり。ほかにも、自分の将来を閉ざした赤ん坊をアルカイダのテロリストに喩えてみたりして、自分のダメさをこれでもかとアピールしています。
この作品は大変笑えます。10代の妊娠という深刻なテーマの作品に笑えるという評価をするのは不謹慎と思われる向きもあるかもしれません。しかし、苦いユーモアでくるむことで人間の真実に迫っているところがこの作品の美点なのです。