「あんだら先生とジャンジャラ探偵団」(田中啓文)

あんだら先生とジャンジャラ探偵団

あんだら先生とジャンジャラ探偵団

田中啓文初の児童文学です。東京から大阪に転校してきた小学五年生のめぐが主人公。彼女はコテコテの大阪人のクラスメイト千夏や、校長なのにいつも酒臭い豪快なおっさんのあんだら先生に振り回され、いつも騒動に巻き込まれてしまいます。
大人向けの作品よりも抑え気味ではありますが、田中啓文らしいダジャレや伝奇要素はきちんと盛り込まれています。ヒダル神の逆バージョンのお腹をいっぱいにするヒダラナイ神のエピソードなんかは、真相が笑えるしいつもの地口落ちはひどいしで、これで初めて田中啓文を読む小学生も田中啓文ファンの大人も楽しめると思います。次はぜひ神話要素も盛り込んでもらいたいです。
出てくる食べ物がどれもおいしそうなところもポイント高いです。
おどろいたのは、これが昔懐かしいプロレタリア児童文学とも読めることです。作品世界の大阪は足下(!)という名前の頭の悪い知事に支配されていて、めぐが転校してきた学校も廃校にされようとしていました。知事の手下とあんだら先生の問答を少し引用します。

「あなた、二言目には金がない金がないとおっしゃいますが、私の計算によりますと、いくら教材費が安いといっても、在籍生徒数×教材費でかなりの金額が毎月集まっているはずです。まさかあなた、ネコババしてるんじゃ……」
「アホ抜かせ。うちは貧乏人のこどもが多いんや。貧乏な家からは金はとれん」
「その考えはまちがっています。そういう連中は、払えないんじゃなくて払わないだけでしょう。あなたが、徴収する努力を怠っているんです。現に、ちゃんと払っている家庭もあるんだから、不公平じゃないですか」
「おまえなあ、どの口でそういうことが言えるねん。不公平なんちゅう言葉は、うちのこどもの家見てから言うてくれ。ふた親が借金こさえて蒸発して、電気もガスも水道もとめられて、近所のひとの親切心でメシ食わしてもろてる……そんなやつもおる」(p168)

このまっとうな主張に押しつけがましさがまったくないのがすごいです。なぜなら、ダメ人間ややくざが共存している様子がユーモラスに描かれている作品世界の大阪のあり方から、こういう主張はごく自然に生まれてくるものだからです。