「ピラミッド帽子よ、さようなら」(乙骨淑子)

ピラミッド帽子よ、さようなら (復刻版理論社の大長編シリーズ)

ピラミッド帽子よ、さようなら (復刻版理論社の大長編シリーズ)

おれは森川洋平。団地の三階に住む勉強ぎらいの中学生だ。ある夜ピラミッド帽子をかぶったら、誰も住んでいないはずの向かいの四階の部屋に灯りが見えた。映研の上級生クマさんはその話に興味を持ち、二人は夜中の四〇四号室におそるおそるでかけた。そこであった少女は同級生の浅川ゆりとうりふたつ。自分は地下の国アガルタからきたという。

上のあらすじは、全集版の紹介文から引用しました。「教育評論」誌1978年7月号から1980年9月号に連載されていた作品です。1980年8月13日に著者が乳癌で死去したため、未完となってしまいました。翌1981年に小宮山量平による補筆が加えられた単行本が理論社より刊行されました。今回の復刻版ではこの補筆は削除されています。
乙骨淑子がどれだけ偉大な児童文学作家であったかを語り始めるときりがないので、ここでは多くは語りません。ひとつだけ彼女の偉大さの証拠として、全集が出ているという事実を指摘しておくにとどめておきます。全集が出ている児童文学作家の少なさを考えれば、そのすごさは想像できると思います。
「ピラミッド帽子よ、さようなら」は、天才乙骨淑子が病床で命を燃やしながら書いた問題作です。ピラミッド、地球空洞説といったオカルトを取り込んで、地下世界アガルタに至るミステリアスなストーリー展開、小学生時代にこの物語の魅力にのめりこんだ体験は忘れられません。そして、最後にこの作品が未完であると知ったときの絶望感も同様です。なので、この作品について冷静に語ることは難しいです。
本当は、この作品はもう上のような湿っぽい語り方からは解放してあげなければならないと思っています。どうしても作品世界の死のにおいの濃さを作者の病状に結びつけて語ったりしたくなるのですが、そういう語り方は作者にも作品にも失礼です。そろそろ「ピラミッド帽子よ、さようなら」は、ただのものすごく面白い物語として評価し直されるべきだと思います。
と、偉そうなことをいっておいてなんですが、わたしにはまだそれができませんでした。今度再読の機会があったら、次こそは純粋に作品のおもしろさを楽しむ読み方をしたいです。