「C&Y地球最強姉妹キャンディ 夏休みは戦争へ行こう!」(山本弘)

「だって『宇宙のスカイラーク』は名作だよ!」(p100)

世界一頭のいい女の子竜崎知絵と世界一強い女の子虎ノ門夕姫が大暴れする痛快冒険SF「地球最強姉妹キャンディ」の第二弾です。遊園地にヒーローショーを見に来ていたふたりは、お忍びで来ていた外国の王子の誘拐事件に巻き込まれます。そしてなし崩しに東南アジアの二国の戦争に介入することになります。二国は宗教上の理由(赤ん坊の頭にバターを塗るとかお茶のお風呂に入れるとか、カニを食べてはいけないとかウナギを食べてはいけないとか端から見ればどうでもいい迷信にしか思えないようなやつ)や領土問題(そりゃ歴史の解釈はいろいろあるよね)で何百年も争っていました。そして裏では死の商人も暗躍し、「ギロン・システム」というひどい兵器が投入されようとしていました。ふたりは両親が新婚旅行から帰るまでの期間限定で、二国の争いを終わらせるために大奮闘します。
山本弘の作品では、合理的な判断ができず愚行を繰り返してしまう人間に対する絶望がしばしば表明されています。彼のSFでは人間よりも人工知能の方が正しい判断ができることになっています。
この作品でも、彼のそうした厳しい人間観は表れています。知絵は最終的に戦争を終結させますが、その手段は「正義の味方」にふさわしいものではありませんでした。合理的な説得では戦争を終わらせることはできないという諦観が感じられます。しかしその一方で、どんな手段を使ってでも人間の愚行は終わらせなければならないという熱い思いも作品の中に仕込んでいるのです。山本弘はこうした複雑な人間観を持った作家なので、これからも子供に向けた物語を書き続けるべきです。そしていつか、「詩羽のいる街」の作中作「戦場の魔法少女」を角川つばさ文庫で書いてもらいたいです。
さて、上の堅い話は忘れてください。この作品はちょうおもしろい娯楽作品として楽しむべきです。キャラクターの魅力(知絵こわいよ知絵)、メカの魅力(強襲揚陸艦かっこよすぎる)、ジェットコースター的なストーリー展開、派手で豪快なアクションシーン、ひたすら物語の快楽に身をゆだねていればいいのです。
「アイの物語」の帯に細田守が「この話を映画にするにはどうすればいいか、ずっと考えている」と書いていました。それもいいですが、先にこっちを劇場アニメにすべきです。これほどアニメ映えする原作はなかなかないはず。細田守の次回作はぜひ「地球最強姉妹キャンディ」で!