「白狐魔記 天草の霧」(斉藤洋)

天草の霧

天草の霧

「白狐魔記」第5巻。島原の乱のお話です。押しかけ弟子の南蛮堂煙之丞の相手をしたり、360年ぶりに天竺から帰ってきた仙人に教えを請うたりして、白狐魔丸はまったりと過ごしていました。南蛮堂煙之丞が旅に出るというのでついて行ったところ、彼は行方をくらませてしまいました。彼を捜していくうちに流れ流れて島原にやってきた白狐魔丸は、海上を歩く奇跡を起こしている天草四郎を目撃し、島原の乱に巻き込まれていくことになります。
他の巻でもそうですが、斉藤洋の歴史上の人物に付けられた幻想を剥ぎ取ろうとする姿勢が顕著に見えます。宮本武蔵などは特に重要でない役で登場し、あっさり白狐魔丸の術でやられてしまいます。天草四郎に対しても斉藤洋は、外見を「饅頭顔」であると評し、美少年であるという幻想に抵抗します。
そして、天草四郎の内面も、自分が神の子であると思い上がった狂信者として描いています。彼は雅姫様の怒りを買ってしまったために悲惨な最期を遂げることになります。
白狐魔丸はなるべく犠牲者を減らそうとこっそり城から人々を逃がすのですが、逃げ出すのは成り行きで参加した人とか最初からそんなに神を信じていない人ばかりで、ある意味真剣な人が救われないのが皮肉です。狂信者はいかんともしがたいというのが結論なのでしょうか。