- 作者: マルセル・エーメ,さとうあや,さくまゆみこ
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2010/03/10
- メディア: 単行本
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「ニワトリの家出」
ニワトリがキツネにそそのかされて農場から集団脱走する話です。農場にいればいずれ食べられることは明白なのですが、かといって森に出て行っても身を守るすべがないので、ニワトリは一応キツネの誘いに躊躇をみせます。ニワトリを森へ誘い込んで食べようと思っているキツネは、実はニワトリは成長すると牙が生えて空も飛べるようになるのだが、人間はそうなる前に食べてしまうのだと嘘をつきます。この嘘にニワトリはあっさりだまされてしまいます。自分の信じたい嘘を信じてしまう弱者の悲しい習性を鋭く突いています。キツネの立て板に水の弁舌は、扇動政治家を志す子供には大変よい参考資料になることでしょう。
結局ニワトリはキツネに襲われて、自分たちがだまされていることを知り農場に戻ります。脱走の首謀者のおんどりはキツネにかみ殺されたところを人間に見つかり、ワインソースで煮込まれて食べられてしまいます。自分でものを考えないとどっちに転んでも食い物にされるしかないという、厳しい現実が描かれています。
「クジャク式ダイエット」
クジャクが提唱したリンゴの種と水だけを摂取するというクジャク式ダイエットが、農場で流行します。もちろんこんな無理なダイエットが長続きするはずがなく、脱落者が続出します。最後までかたくなにダイエットをつづけたのはブタでした。かわいそうに、ブタは空腹のあまり頭がおかしくなってしまい、自分にクジャクのような尾羽が生えてきたという妄想を持つようになります。ある日ブタは、自分の背後に虹が出たのを見て、自分の尾羽が開いたのだと思い込んでしまいました。
ブタは背中を曲げて、いっしょけんめいに尾羽をたたもうとしました。すると、ちょうどそのとき、虹がすうっと消えていきました。でも、その美しい色は、ブタの皮膚につかのま映って、あざやかにやさしく輝きました。そのすばらしさは、クジャクの羽さえくすんでみえるほどのものでしたよ。(p178)
狂気の先にある美を描ききってしまった危険な作品です。