「ティムール国のゾウ使い」(ジェラルディン・マコックラン)

ティムール国のゾウ使い

ティムール国のゾウ使い

舞台は14世紀の中央アジア、ティムールが覇権を伸ばしてた時代です。主人公はティムール国の少年戦士ラスティ。ティムール軍に従軍してインドの都デリーを攻めてたラスティは、ゾウ使いの少年カヴィとゾウを捕虜にします。やがて自らの意外な出自を知ることになるラスティと、故国を蹂躙したティムールへの復讐に燃えるカヴィとの交流を軸に物語は進みます。
ラスティとカヴィは言葉も通じないので、ふたりのコミュニケーションは行き違います。ラスティは捕虜のカヴィに情けをかけているつもりなので、相手も自分のことをよく思っていると思い込んでいます。しかしカヴィの方は殺意を抱いています。無邪気に友情を信じるラスティからは、加害者の側の思い上がりが感じられて不気味です。
人間の思惑の範疇外にいるゾウがラスティとカヴィの間を仲立ちすることで、ふたりのディスコミュニケーションはさらに増幅されます。カヴィはゾウにラスティを殺すように命令したのに、ゾウは鼻でラスティを持ち上げて自分の首の上に乗せてしまうといった具合です。
そんなこんなでふたりの交流は大変な困難を極めるのですが、それでも徐々に友情らしきものが芽生えてきます。そして、カヴィの復讐という終局に向かって物語は疾走していきます。サーカスを舞台とする彼の復讐劇は、見世物として高度な計算がなされた演出がほどこされていて、読み応えがありました。
ラスティの兄嫁のボルテというキャラクターが、道化役として際だった印象を残したことも特筆しておくべきでしょう。彼女は差別主義者で虚栄心が強く利己的な、どこにもいいところのないキャラクターとして造形されています。初めてマコックラン作品を読む読者が作者は女性に憎しみを持っているのではないかと勘違いしても仕方がないくらいひどいです。そんな彼女が物語をいい具合にかき乱して、最後は重要な役割を果たしてくれます。