「ウルは空色魔女」(あさのますみ)

魔女の女の子ウルが人間の女の子ちさとの家に下宿して修行するという王道魔法少女ものです。ウルの使える魔法はものを甘くするというおおそよ役に立ちそうにないものなのですが、与えられた課題をこなさないと永遠に10歳のまま成長することができません。はたしてウルは人間界での修行を成功させることができるのか……というお話です。
児童向けのエンタメのお手本といっても過言ではないほど完成度の高い作品でした。魔法が使えたらいいな、すてきなお友達ができたらいいなという児童の願望にこたえつつ、成長したい、人の役に立ちたいといった前向きな欲求も満たしてくれる良作です。道徳的な内容なのですが決して上から目線の説教になっておらず、子供の目線に寄り添おうとしているところもポイント高いです。児童文学の向日性という言葉を久しぶりに思い出しました。
ウルの魔法は限定されていてほとんど役に立ちません。この魔法をどう応用して役立たせるのかというのが本作の大きな見所です。しかし、実際役に立つ場面は限られているので、課題の多くには人の力で立ち向かわなければなりません。だから当然、ウルたちは敗北も経験します。立ちふさがる現実の壁に敗北する苦さもこの作品は抱え込んでいます。
ところで、半人前のウルは「空色魔女」なのですが、魔女としてランクアップすると「夕焼け魔女」「闇色魔女」という称号を順に得て、歳をとっていくことになります。色による区分けはわかりやすくて児童向けエンタメに適切な手法なのですが、その色に注目するとランクアップするごとに死のイメージの濃い色になっていくことがわかります。作者は向日性だけでなく、日本児童文学の持つ暗い部分もきちんと継承しているようです。
「ウル」角川つばさ文庫の屋台骨を支えるシリーズになることは間違いないでしょう。ここを出発点として児童文学作家あさのますみがどんな世界を見せてくれるのか、非常に楽しみです。