「野に出た小人たち」(メアリー・ノートン)

野に出た小人たち―小人の冒険シリーズ〈2〉 (岩波少年文庫)

野に出た小人たち―小人の冒険シリーズ〈2〉 (岩波少年文庫)

床下の小人たち」の続編です。主人公は人間のものを黙って拝借して生活する借り暮らしの小人の少女アリエッティ。彼女とその家族が人間に見つかってしまったために引っ越しを余儀なくされてしまうのが、前回までのお話でした。2巻では、野に出た小人たちのサバイバル生活が語られます。
小人たちは原っぱに落ちていた編みあげぐつを発見し、それを当面の生活の拠点とします。そしてそのくつを水辺に運んだり、野イチゴを発見したりして少しずつ外での生活を豊かなものにしていきます。大人たちは不平をぶつくさ言いながら、アリエッティは好奇心に目を輝かせながら、外でのあらゆる危険に立ち向かい新しい暮らしに適応していきます。その過程が綿密に書き込まれていて強い説得力を持っているのが面白いです。本の最初に地図が付いているので、これに照らし合わせながら読み進めていくと楽しさが倍増します。
このように本筋のアリエッティの冒険を追うだけでも十分面白いのですが、やはりそれ以上に注目されるのは作品のメタ構造です。
ここで少し1巻の復習をしておきましょう。「床下の小人たち」はメイおばさんがケイトという少女に語って聞かせた話ということになっていました。しかし実際の語り手は名前のない正体不明の人物です。そして1巻のラストでメイおばさんは、アリエッティの冒険は事実ではなく、不幸な少年であった弟の空想だったとしか解釈できないような衝撃の事実を告げたのです。
さて、2巻の冒頭にもやはりメイおばさんとケイトが登場し、メタ構造は継続されます。名前のない語り手(この語り手が1巻の語り手と同一人物であるかどうかは不明)は、「借り暮らしの小人たちの話を仕上げたのはケイト」で、しかもケイトは「じぶんで考えただけの」虚構も話に盛り込んでいると明かしてしまいます。
そして冒頭の50ページほどは、本筋のアリエッティの冒険ではなく、ケイトがアリエッティの話を仕上げるための資料のひとつとした手帳を手に入れた経緯を語ることに費やされてしまいます。その手帳の持ち主は森番のトムじいさんという人物だったのですが、彼は村中で評判の大うそつきでした。作者はトムじいさんの持つ証拠品と彼の証言の信憑性を読者が疑うように誘導しているのです。
はたしてアリエッティは実在小人なのでしょうか、非実在小人なのでしょうか?