「川をくだる小人たち」(メアリー・ノートン)

川をくだる小人たち―小人の冒険シリーズ〈3〉 (岩波少年文庫 (064))

川をくだる小人たち―小人の冒険シリーズ〈3〉 (岩波少年文庫 (064))

床下の小人たち」「野に出た小人たち」に続くシリーズ三作目です。
タイトルと表紙のイラストでわかりますが、小人たちがやかんにのって川下りをするのがこの巻の一番の見せ場です。森番の小屋で親戚に再会したアリエッティたちでしたが、ここも安住の地とはなりませんでした。住民が引っ越してしまったので、人間に寄生している借り暮らしは物資の補給をたたれてしまいます。しかも、危険な白イタチが家の周りをうろついて、家から脱出するのも難しくなってしまいます。アリエッティたちはスピラーの手引きで下水道を通って脱出を試みます。
危機また危機の連続で、三作目も非常に面白い冒険物語になっています。
メイおばさんとケイトの動向も確認しておきましょう。
三作目の冒頭では、ケイトがトムじいさんと話しているあいだの、メイおばさんと弁護士のビーグッドさんとの会話の模様が描かれています、ビーグッドさんは小人の存在など全く信じていない人なので話は核心に迫っていきそうになるのですが、メイおばさんが狸でなかなか彼女の真意が見えません。
はじめは「ああ、それはただのお話ですわ。」と全否定するのですが、しばらくすると「つくったのは、わたくしのおとうとだと思いますよ。つくり話だとすればですけど。」と留保を加えるようになります。さらに話がすすむとメイおばさんの態度は目に見えて変わってきます。

「あの人たちは、ある種の美に対するあこがれといったものをもっていて、自分たちの暗いちいさな穴ぐらを、人間の家庭なみに、魅力的な住み心地のよいものにしたがっているのです。おとうとも、よく手つだってやったものですわ。」メイおばさんは、急に、どぎまぎしたように口ごもりました。「つまり、おとうとがそういっていたんですの。」といって、中途半端に話を結ぶと、とりつくろうように、ちいさなわらい声をたてました。(岩波少年文庫版p15)

このあたりの記述を見ると、メイおばさんは小人の話を信じたがっているようにも推察されます。
さらにメイおばさんの元に戻ってきたケイトは、トムじいさんは嘘つきだから小人の話をしたのではなく、小人の話をしたから嘘つき呼ばわりされるようになったのだと、因果関係をひっくり返してしまいます。ここにきて、心情的には作品は小人実在説に傾いてきたような気がします。