「きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは……」(市川宣子)

きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは…

きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは…

市川宣子は、視点を自在に移動させるのが達者な作家です。特に視点が地べたに張り付いた物語を書くのがうまいようです。ありが主人公の「ありんこ方式」や、にわとりが主人公の「ケイゾウさんは四月がきらいです。」などでは、小動物の視点を借りることで、独特の視座から見た世界をあざやかに描写していました。
帰りの遅いお父さんは何をしているんだろうという疑問は、幼児にとっては興味深いもののはずです。この作品はタイトル通り、そんな疑問にホラ話チックに応えている短編集です。お父さんは軽く世界の危機を救うような大冒険をひそかにしていました。
それぞれの短編で、冒頭で紹介した市川宣子の視点移動の芸が楽しめます。第一話ではモグラの依頼で穴掘りをさせられます。視点は地べたに張り付き、どんどん下降していきます。そして今にも地震を起こしそうななまずをなだめるという使命を与えられます。
第三話は逆にはるか上空、宇宙にまで目を向けることになります。今度の依頼者はあらいぐま。彼らは年に一回夜空の星をモップで落としてピカピカに洗う仕事をしていました。お父さんは洗った星を野球のバットで打って空に戻す作業を頼まれます。
一話一話それぞれ意外性のある話が並んでいて、とても楽しい短編集でした。